「スイートリトルライズ」― 人は守りたいものに嘘をつく ―

「スイートリトルライズ」― 人は守りたいものに嘘をつく ―

江國香織作品といえば、「冷静と情熱のあいだ」が一番有名かもしれませんが、
「ホリーガーデン」「流しのしたの骨」「きらきらひかる」「神様のボート」
「こうばしい日々」「落下する夕方」……など、片っ端から読みふけりました。
江國さんの涼やかな日本語が好きなんです。
でも、生活感のない登場人物たちなのにうまく作品に収まっている感じを
映像化するのは難しいはず。

と思っていましたが、矢崎仁司監督の「スイートリトルライズ」は、
江國作品特有のふわふわした現実離れ感と息が詰まりそうな緊迫感を見事に映像化。
矢崎監督は「ストロベリーショートケイクス」も撮ってるんですね。なるほど。

テディベア作家・瑠璃子(中谷美紀)は、IT企業に勤める聡(大森南朋)と結婚して3年目。
一見穏やかで幸せな生活にみえるのに、いつのまにか深い溝が。
ある日、非売品のテディベアを譲ってほしいという青年・春夫(小林十市)に出会い、
実直さに心惹かれる瑠璃子。一方、聡も大学の後輩・三浦(池脇千鶴)と
偶然再会し、心が揺れてしまう…。

お互いのすれ違いを浮気で埋め合わせていく夫婦。
ストーリーそのものにはきっと賛否両論あることでしょう。
ま、でも、江國作品はそういうものだと割り切ってご覧ください。
きっと、もっと現実はドロドロしていて、生活感アリアリなのですが、
ドロドロと生活感を抜いた分、内に秘めている孤独と狂気がくっきりしてくる気がします。

  5時50分、妻が目を覚まし、ベッドサイドのキャンドルを吹き消す、
  カーテンを開けて。ラジオをつけて。お湯を沸かす。
  サイフォンで珈琲を淹れる。掛け時計のネジを巻く。
  朝の日課を、静かにこなす妻。
  夫はまだ寝ている。が、実は起きている。
  朝から窓を磨く妻、小さく窓ガラスをコツコツとノックする。
  ここで目を開ける夫、窓の向こうで「お・は・よ・う」と妻の口が動く。

ほらほら、江國ワールド炸裂!穏やかで涼しいでしょ~。
窓にハァと息を吹きかけて磨くんですよ、瑠璃子さんは。
日々の生活を大事にする瑠璃子さんはこれを毎日こなします。
生活感ゼ~ロ~。
やっぱり江國ワールドにしか住めない人。

小林十市は元バレエダンサー。不倫相手の役ですから、肉体美をちゃんとご披露しています。
バレエの動きを活かして?クルクル回るシーンもありました。
池脇千鶴は、こんなに太ったの!と衝撃だったのですが、この役のために太る努力をされたとか。
他には、AKB48の大島優子、安藤サクラ、黒川芽衣。脇役もなかなか良かったです。

ただ、違和感の残るシーンが一つ。ここからはちょっとネタバレです。
彼女と別れた浮気相手の春夫に、瑠璃子が「こんなの全然スイートじゃない!」と泣き崩れます。
そしてかぶせて春夫が言います。「それはとてもスイートじゃないか」
何ですかこの唐突感は?!オーイっ!誰か説明して!
町田康に言わせれば『ハァ?ぱるどん?』(by「告白」)です。
原作ではもっとすんなり読めるのでしょうね。

それでもそれでも、私は江國ワールドが大好きです。
  「人は守りたいものに嘘をつくの」
さあ、江國流決めゼリフがあちこちにちりばめられていますよ。

シエマで9月17日(金)まで。
http://ciema.info/index.php?itemid=1592



この記事へのコメント
小池さん、コメントありがとうございます。

私も江國さんの文章大好きです。
しばらく読んでないので、そろそろ読み返したいです。
Posted by ぽてち at 2011年01月18日 18:02
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