幻の尾道外伝『野ゆき山ゆき海べゆき』

1986年の大林宣彦監督作品である。
大林監督は、岡山県岡山市生まれだが、広島県尾道市で高校生まで過ごし、尾道をふるさととしてとても大事にしている。
尾道三部作(『転校生(1982年)』、『時をかける少女(1983年)』、『さびしんぼう(1985年』)では、熱狂的なファンがロケ地巡りをするなど、映画と地域活性化のさきがけとなる現象を起こした。
大林監督の尾道に対する想いは、後に新尾道三部作(『ふたり(1991年)』、『あした(1995年)』、『あの、夏の日(1999年)』と呼ばれる作品を生み出している。
1986年公開の映画『野ゆき山ゆき海べゆき』は、記録上は10月の公開になっているが、予備校生だったため、観にいけなかった。
後にDVD化された時にすぐに購入したが、カラー版とモノクロ版の2枚セットになっていた。
モノクロ版が、とても作品の抒情感をだしていて、良かった。今更ながら銀幕で観たかったと思っている。
後に「鉄骨娘」としてブレイクした女優鷲尾いさ子の映画初主演作品であり、初ヌードも披露している。
この画『野ゆき山ゆき海べゆき』は、詩人佐藤春夫の自伝的小説「わんぱく時代」の映画化といわれているが、原作と映画では、時代設定や舞台設定が異なっている。
特に舞台は、瀬戸内地方の海辺の町だが、どう見ても尾道であり、大林監督のファンの間では、尾道外伝と呼ばれている。
確かに作中の登場人物やエピソードは、「わんぱく時代」にあるものだが、ラストも全く異なっており、また、「わんぱく時代」が伝えたかったもう一つの時代背景を伝えていない。
熱狂的な佐藤春夫ファンとしては、「わんぱく時代」が原作とは、思っていない。
大林監督が、なぜ、「わんぱく時代」を下地に使ったのか、それは、映画のタイトルに現れている。
少年の日
野ゆき山ゆき海辺ゆき 真ひるの丘べ花を敷き
つぶら瞳の君ゆゑに うれひは青し空よりも
影おほき林をたどり 夢ふかきみ瞳を恋ひ
あたたかき真昼の丘べ 花を敷き、あはれ若き日
君が瞳はつぶらにて 君が心は知りがたし
君をはなれて唯ひとり 月夜の海に石を投ぐ
君は夜な夜な毛糸編む 銀の編み棒に編む糸は
かぐろなる糸あかき糸 そのラムプ敷き誰がものぞ
佐藤春夫の傑作のひとつであるが、詩の書き出しが、映画タイトルになっている。
大林監督は、この「少年の日」を映像化したかったにちがいない。
Posted by 勝手にシエマ応援隊.
2010年05月28日18:43
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